三島由紀夫の『豊饒の海』、伊集院静の『愚者よ、お前がいなくなって淋しくてたまらない』のような位置付けの作品、と私は勝手に思っています。
　村上さんの武器は隠喩力、描写力、想像力、幻想力，そして物語る力。それらが遺憾なく発揮されていると思います。これぞ，村上ワールド，集大成と言っても過言ではないのではないでしょうか。これが，最後の大作になる可能性さえあると思います。もちろん私としては次の大作を期待しますが。

　村上春樹の作品は、真っ白いキャンバスに脳が生み出した言葉と文をつなぎ、一枚の絵を完成させるイメージと重なる。無から有を生む。何もないところに言葉と文を集積し、かつその統合がひとつの作品として微妙なハーモニーを創り出す。その単語とその単語を結びつけるのは無理じゃない？というのを結びつけ、その隠喩はどういうこと？というのを何となく納得させ、その表現はきわどすぎる、という冒険をする。読者は、現実と非現実の両方の世界を行ったり来たりする。読後感は不思議気持ちいい。脳作品。