「原初状態における合意」は,<公正としての正義>論の中核だが,政治的正義と一般的道徳正義が区別されていなかった.立憲的で民主的で自由な社会には,理に適う相入れない多元性が存在するので,包括的な道徳的教説を全ての人が奉じるのは無理である.そこで,全ての人が受容できる政治的構想を目的として考え出したのが,ロールズの政治的リベラリズムだった.対立する教説から独立させ,重なり合うコンセンサス(政治的構想と包括的教説を結びつけるもの)と公共的理性(<政治的なもの>の運用における道徳義務)を援用して,多元性が容認する政治的正義を打ち立てようとした.『正義論』を是認しつつ,「市民」の代表による秩序ある社会の永続的安定(政治)をめざす構想である.