「家族を養ううえでこれぐらいは…」といわれるひとつの目安が年収600万であるが,この金額を得るのもなかなかたいへんだ.一般的に正規雇用であることはもとより,それなりのキャリアや職能がないと簡単に手にすることはできない.月にならすと50万円,ボーナスを別にすると約40万となり,所得ではなく給与なので手取りはさらに減る.スパウズの副収入があると助かる.それほど欲張った給料でないにもかかわらず,得るのはそんなにやさしくないのが現実だろう.
事実,日本の平均収入は2020年で430万円.2018年の等価可処分所得(世帯所得を世帯人員で調整したもの)は254万円,その半分127万円以下の所得世帯が貧困とされる(2018年15.4%).年収600万円を超える割合,およそ20%,5人に1人残り4人は600万円以下である.また,男性は29.7%いるのに対し,女性は5.3%(2020年)しかいない.この差もやはり問題だ.テーマから外れてしまうので深くはふれないが,男性と女性の年収差は著しい.国税庁の資料(2020年)によると,収入の平均は男性571万円,女性280万円で,女性は半分以下である.確かに女性が就いている仕事と男性の仕事が同一ではないかもしれないし,また,本人の希望もあるだろうが,逆にそれだけが理由でなく雇用制度として問題がある,不公平であることも間違いないだろう.
単純労働と複雑労働,簡単な誰でもできる労働と難しい労働,高収益率の労働と低収益労働など,労働の内容によって報酬が異なるのは当然だ.職能,職種,業種,組織の規模,そして,高齢者,女性,シングルマザー,若者などの属性など,さまざまな因子が交錯するので報酬をマクロで論じるのは容易ではない.電気自動車の開発者であればシングルマザーでも,高齢者でもそれなりの報酬は得られるだろう.しかし,だれでも最先端技術の開発者になれるわけではない.誰でもできる仕事で高報酬は得られない.しかも,ICT化,AI化で単純な事務的作業はどんどん減ってきている.労働の内容を向上させないと賃上げにつながらない.ミクロ的には,労働の質を上げる必要がある.
マクロ的には,最低賃金を上げる議論が必要になってくる.最低賃金は,最も簡単な,誰でもできる仕事に支払われる報酬ともいえる.だから,最低賃金を法的に定めることには異論もあるだろうが,それでもやはり,ある程度の誘導,すなわち市場だけに任せてはおけず議論せざるをえない.
結論としては,ミクロ,マクロ双方からの改善努力が必要で,助けなくてはならないものは助けなくてはならない,すなわち分配が必要なのは自明であり,その制度をどう具体的に道づけるかがトピックであり,その計画を具体的に立て実行することがポイントだ.