沢木さん(耕太郎)の『作家との遭遇』を読んでいて,キャパの恋人であり共同制作者だったゲルダ・タローの伝記を執筆したシャーバーについて,「書く動機のひとつに義侠心があるのではないか,私がノンフィクションを書くときの深いところでの執筆動機に似た」というのを目にし,着流し,長ドス,サラシを巻いた健さんのイメージが浮かび,「義侠心」と「書く動機」がスムーズにつながらず,止まってしまった.
義侠心:仁義を重んじ,自己を犠牲にしてでも,弱いもの,困っている人を助けようとする気持ち,正邪の判断,勧善懲悪に依拠する.
まだわからない.そこで,
仁:人を思いやること,人を愛すること.
義:利欲にとらわれずなすべきことをすること.
ついでに,
礼:仁の具体的行動.宗教的な儀礼,タブー,規範,上下関係における守るべきルール
智:道理をわきまえること,物事を知っていること
信:友情を大切にし,言明を変えない,真実を告げ,約束を守る,誠実である,よって信用されること
整理すると,「義侠心から書く」ということは,書く対象(被書体)を思いやり,特に被書体が一般的に間違って認識されていたら,それを正し,知られていない功名があったら詳らかに公にする.利得に惑わされず,自己犠牲を顧みずに書く.その時に必要なのは,正しく知ること,正邪の判断を間違えないこと.
確かに沢木さんは,被書体を擁護,弁護,名誉回復,汚名挽回するために書くことが多く,同じ真実でも,糾弾,非難,咎め,論難,弾劾することはないように思う.明るい所,長所,良い所ばかりを見つけて書く.沢木さんは被書体を思いやり,親愛の情を持って書く.慈しめないものは被書体としない.特に不当な扱いを受けている被書体を掬うときに,沢木さんの本領が発揮されるような気がする.それが,「義侠心から書く」,ということかもしれない. シャーバー はゲルダ・タローをそのように書いたのか.