厚生労働省より2021年9月1日時点の,住民基本台帳に基づく100歳以上高齢者数が発表された.86,510人,うち女性は88%だった.改めて女性の圧倒的長寿が示された.県人口の割合で,最多が9年連続島根県,最少が32年連続埼玉県だった.9年連続や,とくに32年連続はそれなりの要因があると思われるがどうなのだろう.島根県・埼玉県の福祉課の担当者がいう,「島根県は高齢の方も元気で活動されている人が多い」,「埼玉県は東京のベッドタウンで,100歳未満の若年の割合の高い県,これから高齢化が進み,100歳以上の割合も高まる」は確かにもっともだが,9年連続,32年連続の説得力には不十分と思われる.100歳以上の高齢者の割合の多い・少ないの良し悪しはさておき,なぜ埼玉県が32年連続最少なのか?32年連続ともなればよほどの,明白な要因があるのではないか?すこし,考えてみる.

 まずは,図表1「100歳以上高齢者の割合四分位コロプレスマップ」,100歳以上の高齢者の人口に対する割合を25%ずつ4つに分け赤の濃淡で表した都道府県地図.赤が濃いほど割合が高い.島根県を筆頭に高知,鹿児島,鳥取,山口,熊本,長野,香川,山梨,愛媛,長崎,宮崎と続く.明らかに西高東低,特に,中国,四国,九州が上位で長野と山梨が入っている.逆に割合の低い(色が淡い)のは埼玉,愛知,千葉,神奈川,大阪,東京,茨城,栃木,青森,宮城,滋賀,兵庫で,関東圏・関西圏・東海圏の人口が集中している地域が多い.COVID-19の「非常事態宣言」都道府県とかなり重なる.つまり,割合の多い県は,西日本の人口減少地域,少ない都府県は人口集中地域と大きくはいえそうだ.

図表1  100歳以上の高齢者が占める割合が高い都道府県コロプレスマップ

 図表2は100歳以上高齢者の人数を四分位コロプレスマップにした.人数が多い都道府県は青色が濃く,少なくなるに従い色が薄くなっていく.人数が多いのは北から,北海道,新潟,関東3都県,東海2県,関西2府県,広島,福岡,少ないのは,青森,秋田,山梨,富山,福井,滋賀,和歌山,鳥取,島根,徳島,高知,佐賀.図表1の裏返しのようで,割合の低いところが人数が多い.一部当てはまらない道県はあるが,割合と人数は逆相関といえそうだ.図表3と図表4(出典:どちらも厚生労働省)は図表1,2をリストにしたもの.

図表2 100歳以上高齢者数四分位数コロプレスマップ

図表3 100歳以上高齢者の割合が高い順リスト

https://kyonoikko.com/wp-content/uploads/2024/01/100歳.numbers

都道府県名高齢者数高齢者/人口千人人口
島根県9051.347672.000
高知県8741.263692.000
鹿児島県18871.1881,589.000
鳥取県6321.141554.000
山口県14971.1151,343.000
熊本県18981.0911,739.000
長野県21971.0722,050.000
香川県10081.060951.000
山梨県8541.054810.000
愛媛県13951.0441,336.000
長崎県13521.0301,313.000
宮崎県10941.0221,070.000
新潟県22051.0012,202.000
佐賀県7950.979812.000
大分県10910.9701,125.000
岡山県17930.9491,890.000
広島県25710.9182,801.000
山形県9710.9081,069.000
富山県9300.8981,036.000
徳島県6320.878720.000
和歌山県8040.871923.000
秋田県8340.869960.000
石川県9840.8681,133.000
沖縄県12690.8641,468.000
福井県6390.833767.000
岩手県9810.8101,211.000
北海道41600.7965,229.000
京都府20450.7932,580.000
福島県14370.7841,834.000
群馬県14510.7481,940.000
静岡県26630.7333,635.000
福岡県37600.7325,139.000
奈良県9700.7321,325.000
岐阜県14030.7091,980.000
三重県12220.6901,771.000
兵庫県36230.6625,469.000
滋賀県9170.6491,414.000
宮城県14430.6272,303.000
青森県7760.6261,239.000
栃木県11840.6121,934.000
茨城県16930.5902,869.000
東京都71380.50814,065.000
大阪府43990.4978,843.000
神奈川県45790.4969,240.000
千葉県30880.4916,287.000
愛知県33520.4447,546.000
埼玉県31150.4247,347.000

図表4 100歳以上高齢者多い順リスト

都道府県名高齢者数高齢者/人口千人人口
東京都71380.50814,065.000
神奈川県45790.4969,240.000
大阪府43990.4978,843.000
北海道41600.7965,229.000
福岡県37600.7325,139.000
兵庫県36230.6625,469.000
愛知県33520.4447,546.000
埼玉県31150.4247,347.000
千葉県30880.4916,287.000
静岡県26630.7333,635.000
広島県25710.9182,801.000
新潟県22051.0012,202.000
長野県21971.0722,050.000
京都府20450.7932,580.000
熊本県18981.0911,739.000
鹿児島県18871.1881,589.000
岡山県17930.9491,890.000
茨城県16930.5902,869.000
山口県14971.1151,343.000
群馬県14510.7481,940.000
宮城県14430.6272,303.000
福島県14370.7841,834.000
岐阜県14030.7091,980.000
愛媛県13951.0441,336.000
長崎県13521.0301,313.000
沖縄県12690.8641,468.000
三重県12220.6901,771.000
栃木県11840.6121,934.000
宮崎県10941.0221,070.000
大分県10910.9701,125.000
香川県10081.060951.000
石川県9840.8681,133.000
岩手県9810.8101,211.000
山形県9710.9081,069.000
奈良県9700.7321,325.000
富山県9300.8981,036.000
滋賀県9170.6491,414.000
島根県9051.347672.000
高知県8741.263692.000
山梨県8541.054810.000
秋田県8340.869960.000
和歌山県8040.871923.000
佐賀県7950.979812.000
青森県7760.6261,239.000
福井県6390.833767.000
鳥取県6321.141554.000
徳島県6320.878720.000

 もう少し別の言い方をすると,島根,高知,鳥取などは割合は高いが100歳以上の高齢者数は少ない,つまり分母となる人口も少ないから割合が高くなっている可能性がある.また,東京,埼玉,大阪,千葉,愛知などは人数は多いにもかかわらず,割合が低いのは人口が多いからともいえる.しかし,なぜ鳥取や高知ではなく,島根なのか,東京,神奈川ではなく埼玉なのかの説明にはならない.各都道府県の実情をもう少し精査する必要がある.さらに,新潟,静岡,広島,北海道などは人数も多く,割合も高い県もある.青森や,秋田,徳島などは人数も少なく,割合も低い,これはなにを意味するのか?

 さて,それでは,今回のテーマである,なぜ埼玉は最少なのか?まず,人口あたりの医療従事者(医師数,看護師数など)が全国で一番低い(厚生労働省医師統計の概況2018).これは一つの要因ではあるだろう.また,65歳以上の糖尿病患者数の割合も全国で一番悪く(厚生労働省患者調査2017),これも要因の一つと考えられる.しかし,考えられるのはこれぐらいで,https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk15/dl/tdfk15-02.pdf(厚生労働省)にあるように,平均寿命の第1位は男性:滋賀で埼玉は第22位,島根は23位,女性:1位長野,島根3位,埼玉39位.埼玉の女性の平均寿命は良くはないが,平均寿命と100歳以上高齢者の割合の相関はあまりなさそうだ.医師数,看護師数の人口に対する割合はともに全国最下位ではあるが,癌心疾患,脳疾患,心疾患の死亡率は全国平均より良い(厚生労働省人口動態報告書2021),コロナの死者率もそれほど高くはない.だから,医療体制の問題が致命的要因とは考えにくい.

 そこで,手がかりとしたのが埼玉県担当者が示唆した人口推移である.2020年に100歳となる人は1920年(大正9年)生まれ,32年前から最下位なので,その30年前に生まれた人は1890年になる.埼玉の人口は1920年でおよそ132万人(図表5),千葉はおよそ137万人(図表6),もともと埼玉に住んでいた人は千葉よりも少なく,その後1940年の太平洋戦争あたりから急増したが,1940年に20歳で埼玉県に移住した人でようやく100歳である.だからその後に自らの意志で移住してきた人たちは,つまりほとんどの埼玉移住者は,100歳になっていない.1890-1920年に生まれた数少ないひとたちを現人口で割って比較するのは,大いに割り引いて考える必要があるということなのではないか.明治時代に埼玉県人になった人もいただろうが,戦後ほどではなく,分子と分母にタイムラグがあることが1番の要因なのではないか?分母の数が不当に大きすぎるという,埼玉の人口増加のシンギュラリティがこのインパクトのある結果の要因なのでは,と思う.医師数など医療関係の数字の「割合」が全国最下位なのも同じ理由なのではないか?

 分子と分母のタイムラグの他に,100歳以上の高齢者は今でも人口の0.07%,1万人に7人,100歳未満の人が9993人となる.この割合はとても小さい数字で,偏差値でいうと82前後となり,極小集合を対象として検討することになる.重箱の隅といったら不適当だが,小さな数字は影響を受けやすい面もあり注意が必要だ.0.07は0.14の半分だが,その差は0.07でしかない.0.07にほんの0.01を加えただけで14%増となるなど,だからということではないが,「32年連続最少」のインパクトほどに大きな問題ではないのではないか,あまり気にしなくていいのではないか?というのが現埼玉県人の結論.もちろん,だから今の現状で良いということにはならないし,埼玉県が改善すべき必要があることも明らかだが,少なくとも割り引いて考えて良いのではないか.また,今生まれた人はともかく,現在それなりの年齢の人は,まだまだ「人生100年時代」とはならない.100歳まで生きられるのは喜ばしいことではあるが,自分が100歳まで生きようとも,生きられるとも思っていない.それも,本結論に至った一因でもある.

図表5 埼玉県人口推移

(出典:埼玉県庁)

図表6 千葉県人口推移

(出典:千葉県庁)

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